ドタバタ悲劇
録画したままだった黒澤の《静かなる決闘》を、やっと見る。黒澤自身が回想録の中で、演出しながら感動でガタガタ震えた、と書いている作品だが、めったに見る機会がなかった。テレビでまともに放送されたのは、ひょっとするとこれが初めてかも。セリフに差別用語がゾロゾロ出てくるもんね。
しかしこれ、いくら性欲が罪悪視されてた時代の映画とはいえ、あんまり現実離れしてません? 三船演じるところの、どう見ても30近い男が結婚してないから童貞でガマンしてるって、清潔というより不気味。あたしゃ感動する前に失笑してしまったよ。
そこへもってきて、黒澤映画特有の悲憤慷慨型大熱演と声涙ともにくだる大演説。どこが「静か」なんだよ。《七人の侍》だったか、「ドタバタ悲劇」と中村とうよう氏がコキ下ろしていたが、こういう映画を見ると、もっともだあと思うね。やたら大げさな身振りだけで中身がうつろだもん。
そのあとで見た成瀬己喜男の《あらくれ》の、なんときめ細やかでリアリティに富むことよ。描写が肩を怒らせてないからいい。オレの嫌いな高峰秀子も、ここでは好演。
しかしNHKさんよ、黒澤と成瀬ばかりやってないで、豊田四郎をもっとやってくれよ。特に《甘い汗》(京マチ子が超名演!)の再放送を。DVD出てないんだから。