被差別音楽
オドロキのCDボックスである。ギリシャでもよっぽどの物好きしか聴かないレンベーティカが、アメリカと違ってギリシャ移民のコミュニティのないイギリスで、しかも4枚組2巻という規模で発売されたんだから。
それもワシリス・ツィツァーニスのような行儀のいい西欧かぶれの曲は、ほんのお義理程度にとどめて、大半は背徳と脱モラルの裏社会の歌なんだから、うれしいじゃありませんか。
特に印象的なのは、ギリシャの同種コンピレーションと違い、引き揚げ組のスミュルナ派と国内育ちのピレウス派とを分けてコンパイルしてあること。おかげで、ピレウス派のレンベーティカが50年代の左岸派シャンソンや60年代フォーク同様に、芸能派に対するアマチュアのアンチテーゼだったことがハッキリする。
ギリシャの裏社会の歌は1937年以後、独裁政権に徹底的に弾圧されたそうだ。良質の音源がほとんど残っていないのは、そのせいらしい。レコードは割られ、金属原盤は溶かされてしまったのだろう。ファッショ体制のやることだ、戦時中の日本同様に、禁じられた音楽のレコードなんか持っていたら憲兵にしょっ引かれたんじゃないか。
発売元のJSP Recordsは普段、古いブルースやカントリーを出している会社らしいが、狂い咲き的にこんなアンソロジーを出したのは魔が差した? それとも、コンパイラーの熱意に負けた? ともあれ、単発で終わらず第2巻を発売したからには、なんとかソロバンが合ったものと見える。めでたい限りだ。音質も、貧しいながらギリシャの復刻盤よりは聴きやすい。